“種蒔き桜”…久しぶりに耳にする言葉だ。
4半世紀のあいだ、ひねもす桜股旅をしてきて、
内地、とりわけ長野、あるいは東北各地で
農作業に勤しむ方々から折に聞こえた言の葉。
桜の咲くのを合図に苗代の種蒔きをする。
そう、鑑賞用の桜でなく、農事の暦である桜。
あまり聞かなくなって久しい。というより、
自分がそういう地に行っていないだけのこと!
扇のように枝をひろげ、そよぐ風に花びらを
揺らす桜木の下、ヌッと現れた与太モン行人に、
ご婦人は農作業の手を休め、あの大震災の
津波から、井戸端話のような本吉郡の秘話まで
三陸の移る空のような声色で語ってくださる。
もう半時間あったら…イカン、木賃宿まで
辿り着かぬ!と礼を述べるや、駅舎にダッシュ。
居合わせた“サンドイッチマン”に嫉妬の
眼差しを背に浴びて、BRTバスに飛び乗った。
僥倖って、予告なくやってきて持ち帰れない。
赤色のポシェットが瞼の奥で揺れている。
(*投稿日は撮影日と異なります)
(*投稿日は撮影日と異なります)
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