刺し子のコート、とうとう別れる日がきた。
この刺し子は消防士用の仕様で、
どんなドカ雪も鉄砲水もなんのその。
身頃、袖、裾がちぎれてボロボロになったが、
「ボロは着てても心は錦」の意気だった。
釦がすべて桜仕立てだったのも、
大の気に入りだった理由かもしれない。
モチーフは中学、高校の徽章。
袖を通すたびに、知るすべもなき
消防士の地に想像の羽根を広げていた。
冬将軍から桜の季節を迎えるたびに、
この刺し子の一枚を思い出すことだろう。
同じくボロ市で手にいれた外套の「二重回し」
(インバネスコート、とんびコートとも言う)
の方は、おさらばして15年になろうか。
こちらのよすがを残さなかったのは、
きっとまだ人生が少し前の方にあったから、だろう。
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