列島をアテもなく右往左往して、20年余、
なあに、案山子(かかし)を探してである。
そろそろ原点に戻るかな、とポイントを
信州は北アルプス・安曇野エリアに定めた。
松本をベースに大糸線で北上、篠ノ井線で
東進するもバッテン、か・か・案山子が
目を皿にして探すも、い・い・いない。
マイ・デンワカメラは…いなないている。
撫でたりなだめすかしつゝ、シンブンガミの
スポーツ面でも!と捲っていると、おや、
『ドロシーの夢を見ている捨案山子』なる
俳句がやんわりと目を射る。ん〜、田んぼ
だけじゃない!ありがとう——我に返り、
捨てられた案山子を漁ってアチコチの道端、
ゴミ捨て場へ目まで汗かきかきスタコラ。
戦果のほどは…言うまでもない。たゞ20年
越しの案山子撮影にオケラのままで帰れん!
滴る汗に奮い立ち、よっしゃ!と居直る。
「なあ~に天下の姨捨の案山子がある」と
全国に名を馳せる棚田・姨捨(おばすて)へ
スタコラと重い足を引きずって辿り着く。
高い空、降り注ぐ信州の陽射しがまばゆい。
目を下ろすと、ご夫人が赤子をあやしながら、
まどろんでいる。まるで信濃の国のおとぎ
話のよう。さっきまでの徒労がウソのように
消え去り、まどろみと平安の中に包まれた。
名月の里・姨捨でも案山子は見つからず。
不意に出逢った情景の高揚感に包まれながら、
ポッケの中、唯一の昼メシ用の握り飯を
棚田にそおっと置いて、瑞穂の国でかくも
平和に日々のご飯をいただける幸を想った。
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『カカシバイブル』(東京書籍・2009年)
全国の案山子、161体ほどが載っています
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